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Studio WAERS (習作プロット 小骨格)
2008年 03月 13日
Studio WAERS (習作プロット 導入部) より つづく

背後には行き交う自動車の騒音、大型車の振動、春を迎えて活気づいた花粉の香り、何もかもいつも通り。 普段と何も変わらない日常の時間が流れていた。

ところが目の前にある店主敬白のプレートの向こうには、なにかとても静かな世界が横たわっているそんな気がした。
それは単純なくすんだ銀盤に見えたプレートの微妙な色合いによるものなのか、それとも店内の様子が見えないわけではないのに霞んで見えるためなのか、あるいは、背後の音が何もかも吸い込まれているかのように静謐(せいひつ)さが漂ってくるためなのかわからなかった。

(プレートの表示は実は玉虫色のように微妙に色彩を変化させ続けていた。 モルフォ蝶の色と同じく、構造色 ── 干渉による発色 ── で微妙な色彩を連続変調した表示装置のようだった。 連続諧調型のIMODらしい)

「サトゥシィ。 どうぞおはいりになり上げて。」

背後からのレナの声で、ふっと夢想世界に入り込みつつあったぼくは我にかえる。
ドアはどこだろう?

ショーウインドウは全面ガラスで最初の張り紙はそこに。そこからコの字形に引っ込むようにスペースがあり床マットがある。 敬白プレートは道路に対して直角方向に掲げられて、その右手にあるガラスはまったくのっぺらとしている。 家でも店でも玄関口は、建物の「顔」なのだと思うのだが、この店にはその「顔」がないようだ。

『カオナシの店か・・・』むかし見たアニメが頭をよぎる。

(店内にて)

「初めてのかぶりものでございましたら、やはり猫がおすすめいたします。 実績も抜群。 データチューニングの誤差も安定しております。」

猫なで声で、背の小さな眼鏡男は説明を続ける。

「先ほどの説明でお分かりのとおり、【かぶりもの】は同調がとても大切な、いわば生命線となっております。 変調をきたしますと、【犬かぶり】のつもりが【オオカミかぶり】になってしまっていた といった、泣くに泣けない状況に相成ります。」

この男の説明をぼくなりに理解したのはざっとこうだ。
(男の胸のネームには『下部』とあった)

・貸し出されたかぶりものは、いつでも返却できるし、気に入らなければ100%返金。
・貸し出すにあたって、当初3週間は店内だけの装着。 4週目以降は店外に持ち出し可能で自宅や職場で利用してもよいが、付け始めてから7週間が過ぎるまでは毎日必ず店に訪れて調整を受けること。
・装着から13週までは完全に無料お試し期間。 それ以降はあるとき払いの催促なし。
・催促はないが、装着中に広告行動を誘発される。(かなりいやだぞ。。。)
・かぶりものとぼくとの同調をとるために、ぼくの神経発火パターン(つまりこころの動きだね)はかぶりものに取得され蓄積される。 そのデータによってかぶりものは円滑に副作用の無い働きを示す。 このデータは守秘はされるが消去はできない。

レナはぼくが説明を受けているあいだ中、そこかしこのかぶりもの(モックアップらしい)を手にしたり、頭に載せたり、胸に押し当てたりしていた。 こうした時の彼女の無邪気さは、幼稚園児と変わらない。

(回想挿入):ようせい成熟な様子

いつでも止められると判っているのに、契約の時はとても緊張した。 別に相手の男が悪魔だと思ったわけでも、【影をなくした男】になりそうだと思ったわけでもないのだけれど、やはり・・・ね。 自分の脳みその中を一部提供して、自分の心の中に得体のわかり切らないものの介入を許すというのは、勇気を試されるものだ。

そして、最期までぼくが食い下がったのは、ぼくの脳内データが取得されながらそれを消去も破棄もできない点だった。

「初期の状態ってのがあるじゃないですか。 そこに戻せばいいだけですよね? どうしてそれができないんです?」

男は言葉を選びながら答えた(それは足元を掬われないようにという態度ではなく、ぼくがどの程度の説明なら理解できるかを探りながらという感じだった)

「あなたの仰ることは正しい。 論理で動作する機械でしたらまさしくそのとおりです。
決定論的に、ああすればこうなる式のコンピュータ動作であるならそうできるでしょう。
それができないのは、このかぶりものは、『相』に応じてしか動作できないからなのです。」

ああ『そう』ですか! とボケをかましたい気分をぼくはぐっと抑えた。

「コンピュータが起動するときにはゼロ ── まっさら ── の初期状態から、小さな手順を積み上げて自分自身の内部状態を構築してゆきます。 それはまさしくブートストラップ(自分で自分を片方ずつ引き上げる)な手法です。
ところがかぶりものの動作は、最初に大きく合わせる ── ざっくり包括的に ── それから徐々に細部の同調を合わせこんでゆきます。 ウェーブレットな動作といいましょうか、フーリエ級数みたいな次数展開といいましょうか。。。」

突然レナが口を挟む。

「いちど私のおっぱいに合わせて形を決めちゃうと、細かな調整はできてもCカップになってしまったかぶりものを、Aカップにはできないってことですか?」

ぼくはずっこけた。(こんな単語を他人に話すレナをはじめて見た)

「まぁそんなもんです(苦笑)。 かぶりものは脳と同じで、可塑性に富んでいるのですよ。 いちど大まかなかたちが定まってしまうと、そのかたちを変更はできないのです。 あれこれ細かくつなぎ換えて、機能をすっかり変えることはできるのですが。」

(ぼくは契約し、初日の試用を済ませレナと家路についた)

「いかがでしたでしょう。 ご主人様」

かすれた低い声が、吸音構造な店内を通り抜ける。
【まずは上出来である。 だがこれからだ、ぬかるな。】

「仰せのままに・・・ワタクシはご主人様の忠実なる【しもべ】でございます。」

男は深く頭(こうべ)を垂れ、床に這いつくばるかのようだった。
胸の【下部】のネームは床に届いて斜めに傾いていた。


   以下つづく。。。(いつになるやら w)
by bucmacoto | 2008-03-13 01:33 |   pre/pro
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