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cancer cell from to run away stem cell (引用文)
2001年 07月 01日
初めて親元を離れての一人暮らしのために、父と 父の友人と そして私は四半世紀以上のむかしに青函連絡で津軽海峡を渡った。
2等客室には客が少なく、3人で酒を飲みながら花札を楽しみながらしょっぱい川を渡った(*)。
その友人がプレゼントをしてくれた酒が Old Parr でした。
*
当時の表現で、津軽海峡を渡ること。
かつて外地とも呼ばれた北海道と本州とを往来するのに使用された表現。


食い道楽で、旨いものがあるならどこまででも足を伸ばし、酒豪で、酒が飲めないくらいなら生きていてもつまらんと豪語し、世話好きで、私の合格祝い二つ分だとカツ丼を好きなだけ(3杯目は大盛 ♪)食わせてくれた。 それがその友人でした。
家電販売の社長なのに、市場の仲買の資格まで新鮮なものを手に入れるために取っていたその人のおかげで、私は海ガメの肉を食べたり、豚足を食べる機会があったようなものでした。

豪快さの陰で、いつの間にか焼酎をミルク割りで飲むようになっていましたっけ。

そのかたの最後のお見舞いに行った時の、私が最後に直接聞いた言葉が
 「オレは、死ぬな。。」
食道ガンで、二回りも小さくなってしまった身体と顔を見つめながら、私にはかけてあげられる言葉を見つけられませんでした。 (あとで婚約者から、どうして私まで連れて行ったのかと苦言を受けましたっけ)
ほとんど、誰からも慕われたその方の葬儀の会場は、本堂も控えの場も満席ではじめてカメラ放送で通夜に参列しました。

その食道ガンにも Stem Cell(ガン幹細胞)が発見されていました。 下は、日経サイエンス記事の重量級引用です。
post at 2006.11/15
edit and move at 2006.11/16


幹細胞の暴走がガンを招く
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無限とも思える増殖能やさまざまなタイプの細胞を生み出す能力などガン細胞と幹細胞には重要な類似点がいくつかある
悪性化した幹細胞が,ガンの原因となっているようなのだ


M.F.クラーク(スタンフォード大学)/M.W.ベッカー(ロチェスター大学)

 米国のニクソン大統領が「ガンとの戦争」を宣言してから50年以上が過ぎた。 この"戦い"で人類はいくつかの重要な勝利をおさめた。 例えば絶望視されていた小児ガンの中には生存率が85%まで上昇したものもある。 他の悪性腫瘍でも,少なくとも進行を食い止められる新薬の開発により,患者は長期間,生存できるようになってきた。 例えば2001年に慢性骨髄性白血病の治療薬として承認されたグリベックは,臨床の場で大きな成功をおさめた。 この薬のおかげで症状が和らいだ患者は多い。 だが,多くの報告は慢性骨髄性白血病がが完治したわけではないことを示している。 悪性腫瘍細胞の予備軍ともいうべき細胞が根絶されていないので,ガンが根治したとは言えないのだ。
 従来は体内に少しでも腫瘍細胞が残っていれば,ガンが再発する危険性があると考えられてきた。 そのため現在の治療法はできるだけ多くのガン細胞を殺すことを重視している。 だがこの方法が成功するかどうかは非常に行き当たりばったりで,最も一般的な固形ガンが進行した場合,患者の予後は改善できていない。
 さらに現在では,慢性骨髄性白血病やいくつかのガンでは,新たなガン組織を作る力を持つ腫瘍細胞はガン組織中のほんの数%しかないことがわかってきた。 このことから,これらの特殊な細胞だけを取り除くことができれば,より効果的にガンを根絶できると考えられるようになった。 これらの細胞は新たなガン細胞の供給源であると同時に,腫瘍の悪性化の原因でもある可能性が非常に高いため,「ガン幹細胞」と呼ばれている。 だがそれだけではない。 ガン幹細胞とは文字通り,かつては正常だった幹細胞や,その子孫細胞で身分かな段階にある細胞があくせいかしたものだと考えられているのだ。
 悪性化した小数の幹細胞がガンの原因であるというアイデアは新しいものではない。 幹細胞の研究は1950年代から1960年代にかけての固形腫瘍や血液ガンの研究から本格的に始まったとされる。 正常なプロセスが狂うと何が起こるのかを調べることによって,正常な組織の形成と成長に関わる多くの基本原則が明らかになった。
 現在では幹細胞研究がガンの解明に役立っている。 これまでの50年間で,正常な幹細胞のふるまいや幹細胞が分裂してできる子孫細胞の分化を制御するメカニズムがかなり詳しくわかってきた。 またこれらの新しい発見をもとに,正常組織中の細胞に階層性があるように,腫瘍組織中にもガン細胞の階層性があることが分かった。
 これらの事実は,暴走をはじめた幹細胞もどきの細胞(ガン幹細胞)が多くのガンの原因だという説を裏付ける強力な証拠となっている。 これらのガン幹細胞に的を絞って破壊するには,正常な幹細胞が悪性化する過程を解明する必要がある。

細胞の世界の秩序

 人体はいろいろな器官や臓器,組織が集まってできており,そのそれぞれが生命の維持に欠かせない機能を果たしている。 とはいえ,体組織を作りあげている個々の細胞の多くは寿命が短い。 今あなたの身体を覆っている皮膚は1ヶ月前と同じものではない。 表面の細胞が剥がれ落ちて入れ替わっているからだ。 腸の上皮は2~3週間ごとに入れ替わり,血液の凝固を担う血小板の寿命は約10日だ。

幹細胞が悪性化し,ガンを作り続ける

  • ガン細胞はどれも同じように増殖し,疾患を進行させる力を持っていると思われがちだ。 だがほとんどのガンでは,そうした力があるのはほんの一部の腫瘍細胞だけだ。
  • 腫瘍を形成する細胞には,幹細胞と共通した重要な特徴がいくつかある。 それは,無限の寿命やさまざまな種類の細胞を作り出す能力だ。 そのためこれらの細胞は「ガン幹細胞」だと考えられている。
  • 幹細胞やそこから生じたまだ分化の進んでいない子孫細胞がダメージを受けて調節機構が機能しなくなると悪性前駆細胞が生じるらしい。
  • ガンを根絶するにはガン幹細胞を標的とする治療法が必要だ。
 ほとんどの組織では,このように新旧の細胞が入れ替わることで,細胞の数を一定に保っている。 細胞数を維持するメカニズムは身体中のどこをとっても同じで,実際にすべての多細胞で共通している。 このメカニズムの大もととなっているのは小数の幹細胞だ。 寿命の長い幹細胞は新たな細胞を補充する生産工場として働いている。 組織などで機能を担う細胞ができる家庭は厳密に制御されており,幹細胞からできる子孫細胞は細胞分裂をするたびに特殊化が進んでゆく。
 最もよい例は血液細胞と免疫細胞からなる造血系細胞群だろう(右ページの囲み)。 血液やリンパ液に含まれるすべての分化した細胞は,骨髄にある「造血幹細胞」という共通の親細胞からできてくる。 造血幹細胞は大人では骨髄細胞の約0.01%しかないが,これらの数少ない細胞の1つ1つから少し分化の進んだ前駆細胞がいくつも作られる。
 前駆細胞はさらに何回か差異欧文列と分化を繰り返して成熟細胞となり,感染の防御や酸素の運搬といった専門の仕事を受け持つ細胞となる。 細胞が機能を持つ段階まで分化するころには,増殖したり別の系列の細胞に変化したりする能力はもはや失われている。 このような細胞は「最終分化細胞」と呼ばれる。
 その間も幹細胞自体は「自己複製」という独自の能力によって未分化の状態を保っている。 新しい細胞を作るときは,まず幹細胞が2つに分裂するが,その結果できた娘細胞のうち,分化がどんどん進むのは片方だけだ。 もう1つの娘細胞は分裂する前の幹細胞と全く同じ特徴を保ち続ける。 そのため幹細胞の数は一定に保たれる。 一方で血液細胞や免疫細胞などの数は,必要に応じて中間段階の前駆細胞が増殖することですぐに増やすことができる。
 幹細胞の最も重要で特徴的な性質は,自己複製によって自らを再生する能力だ。 この能力のおかげで幹細胞だけは無限の寿命を持ち,ずっと複製し続けられる。 対照的に前駆細胞は,増殖しながら自分を再生できるものの,その能力には限界がある。 分裂できる回数が,細胞内部のメカニズムによって制御されているからだ。 分化が進むにつれて,前駆細胞からできた子孫細胞の増殖能はだんだん低くなる。
 この違いがどのような意味を持つかは,移植実験をするとよくわかる。 あらかじめ骨髄に放射線を照射してもとの造血形を破壊したマウスに,造血幹細胞や前駆細胞を移植するのだ。 前駆細胞の移植では,一時的に血液細胞が再びできてくるが,これらの細胞は4~8週間で寿命が尽きて消滅してしまう。 ところが造血幹細胞ならば1つ移植しただけで血液系全体が回復するうえ,その効果は一生続く。

造血系細胞の階層性

 造血幹細胞を調べることで,他の組織の幹細胞を制御している仕組みも明らかになってきた。 人間の体内を循環するほとんどの血球細胞や免疫細胞は,骨髄に含まれている非常に小数の造血幹細胞から作られている。 造血幹細胞はニッチという微小環境の中に存在しており,周りを取り囲む間質細胞から重要な制御シグナルを受け取っている。 新しい血球細胞や免疫細胞が必要になると,幹細胞は分裂して2つの細胞になる。 そのうちの1つは寿命の長い造血幹細胞の性質を保ったままニッチにとどまるが,もう1つの細胞は寿命の短い「多分化性前駆細胞」と呼ばれる細胞になる。 この細胞がさらに分裂してできた前駆細胞は,骨髄細胞系(血液系)の細胞を作るものと,リンパ系(免疫系)の細胞を作るものとに系列が分かれる。 前駆細胞から作られた子孫細胞は分化が進むにつれてだんだんと増殖能が低下し,細胞分裂しなくなったものは最終分化細胞と呼ばれる。 幹細胞だけは細胞分裂のときにも分化せず,自己を再生しつづけるという手段で,無限に増殖する能力を保っている。
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 ※本文および図の著作権は日経サイエンス社に存在しています。



ガン細胞と幹細胞の類似点

 30年以上前から造血形細胞の構成についてはかなりわかっていた。 最近になって,これとよく似た細胞の階層性がヒトの脳や乳房,前立腺,大腸,省庁,皮膚などの組織でも確認された。 幹細胞のふるまいを制御するメカニズムはこれらの組織でも同じだった。 例えば幹細胞の数を管理したりそれぞれの細胞がたどる運命を決定したりするメカニズムなどだ。
 遺伝子やその発現によって起こる一連の反応は「遺伝子経路」と呼ばれ,幹細胞の運命や機能を決定する上で重要な役割を果たしている。 その中にはBmilNotchSonic hedghogWntなどの遺伝子が引き起こす反応がある。 そして,これらの経路は悪性腫瘍の発達にもかかわっている。 そもそもこれらの遺伝子の大半は,幹細胞研究者ではなくガン研究者によって見つけ出されたものだ。
 幹細胞とガン細胞には,ほかにも多くの類似点が見つかっている。 もともと従来の「細胞の悪性化」の定義には,ガン細胞の「無限の増殖能力と不死化」に加えて「近くの組織に進入したり体内の離れた部位に移動(転移)する能力」が揚げられている(訳注:この意味では固まりを作らない白血病などのガンも腫瘍である)。 実際,普通ならばそれぞれの細胞の特徴や増殖を制御している機構が,ガン細胞では失われているようだ。
 幹細胞は自己複製機能を持つという点で,細胞の寿命や増殖を制御しているほとんどの法則にはそもそも当てはまらない。 幹細胞はさまざまな種類の細胞に分化する能右力を持ち,分化した細胞は秩序だった細胞社会を構成するように制御されているので,やがては正常な器官や組織を構成するようになる。
 腫瘍もまた,さまざまな種類の細胞から構成されているが,それらの細胞の増殖などを抑制する機構がない。 正常な器官や組織に見られるような秩序は存在しない。 造血幹細胞は損傷シグナルに応じて体内の離れた場所に移動することがわかっているが,これもガン細胞の転移とよく似ている。
 正常な幹細胞は,むやみに分裂したり勝手に分化しないように,遺伝子調節機構によって厳しく制御されている。 これらの調節メカニズムを実験的に取り除くと悪性腫瘍と非常によく似た現象が起きる。 ガン細胞と幹細胞の共通点や最近のさまざまな実験から,3つの疑問に対するヒントが得られてきた。 ①ガンはどのように発生するのか,②なぜガン細胞は不死化能を持つのか,③なぜ悪性腫瘍は転移することができるのか───の3点で,幹細胞の暴走がその背景にある。

ガンが発生する経路とは?

 腫瘍の成長を促すガン幹細胞の存在はいくつかのタイプの血液ガンや固形ガンで立証されている。 だがこれらの悪性幹細胞が生まれる過程はまだはっきりしていない。 正常な幹細胞と同様,ガン幹細胞は細胞分裂をした後も分化せずに,自己複製能を保っている。 このため,異常な形で分化した細胞を無限に作りつづけ,これらが腫瘍の大部分を構成している可能性がある。 できた子孫細胞のほうは寿命が短く造腫瘍性もないので,新しいガン細胞を生み出すことはない。 正常な幹細胞の行動は,周囲の「ニッチ」から出たシグナルが幹細胞の遺伝的プログラムに働きかけることによって厳密に制御されている。 発ガン性の遺伝子突然変異が生じた幹細胞はニッチからのシグナルに対して正常に反応しなくなる。 最終的に細胞が悪性のものへと形質転換するときに,このことが重要な役割を果たしている可能性がある(a, b, c)。 また幹細胞に起きた突然変異が,未熟な子孫細胞である前駆細胞に引き継がれて,子孫細胞にさらに新たな突然変異が起きると,普通なら幹細胞だけが持っている自己複製能を再び獲得するのかもしれない(d)。 これらの可能性を裏付ける証拠がさまざまなガンで見つかっている。
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幹細胞の弱点

 幹細胞は腸や皮膚のような入れ替わりが激しい組織にも存在する。 しかし,ダメージを受けた細胞や古くなった細胞を入れ替えるだけならば,幹細胞をベースにしたシステムは複雑すぎて効率が悪いように見える。 傷ついた細胞の代わりを補充するならば,まわりの細胞が必要に応じて増殖できた方が生物にとって合理的ではないだろうか? 一見するとそう思えるが,もし最終分化細胞も増殖できるようになれば,体内のすべての細胞がガン細胞になる危険性を持つことになる。
 悪性腫瘍は細胞内の重要な遺伝子に"発ガン性"の突然変異が蓄積し,異常な増殖や形質転換を引き起こしたときに発生すると考えられている。 遺伝子の突然変異は放射線や化学物質による直接的なダメージが原因となることもあれば,細胞分裂に先立つDNA複製の際の単純なエラーとして生じることもある。 いずれにしても,変位が蓄積しないとガン細胞にはならない。
 ガンはさまざまな器官で生じうるが,器官を構成する細胞のほとんどは寿命が短く,最終的にガンを起こすほど遺伝子のダメージが蓄積する可能性は低い(神経細胞や心筋細胞のように例外的に寿命が長い細胞では,分裂回数が少ないので,やはり変異は蓄積しにくい)。 一方で幹細胞は寿命が長いうえに分裂する回数も多いため,遺伝子の損傷が蓄積する危険性は高い。
 実際,放射線を浴びたあと何十年もたってからガンができることが多いのは,幹細胞の寿命が長いためだと思われる。 最初に受けたダメージは第一歩にすぎず,正常な細胞が悪性化するにはいくつかの変異が重なる必要があるのだろう。 幹細胞はほとんど無限の増殖能を持つので,ガン化にいたるダメージを蓄積して保存するという点からも細胞の悪性化にとっては"理想的"な条件を持つことになる。 もともと自己複製能を持っており,普段は自己複製が厳しくコントロールされているわけだから,他の細胞に比べると数少ない突然変異が生じただけで簡単に悪性化してしまう。
 これらを考えると,悪性腫瘍が生じるルートがいくつか考えられる。 1つめは幹細胞そのものに変化が起きて自己複製がコントロールできなくなり,悪性化しやすい幹細胞の集団ができるというモデルだ。 その後さらに幹細胞やその子孫細胞(前駆細胞)に発ガン性のダメージが重なると,悪性化した細胞が増殖してガンとなる。
 2つめのモデルでは最初に発ガン性変異が起きるのは幹細胞だが,最終的にガンに変わるのはそれぞれの系列に分化した前駆細胞だけだ。 このシナリオでは,前駆細胞がすでに失われた自己複製能を何らかの方法で再び取り戻すことが必須になる。
 現在ではどちらかのモデルに当てはまる例がさまざまなガンで見つかっている。 また両方のモデルが,異なる発ガン過程でそれぞれ重要な役割を果たしているというガンも少なくとも1つある。 慢性骨髄性白血病(CML)がそれだ。 CMLは2つの遺伝子が異常な形で融合して起きる白血球のガンで,この異常な遺伝子が正常な造血幹細胞にできると白血病の幹細胞へと変わってしまう(形質転換する)。
 慢性骨髄性白血病は治療せず放置すると,「CMLの急性転化」として知られる急性型に必ず変化する。 スタンフォード大学医学部にいたジェーミソン(Catriona Jamieson)とワイスマン(Irving Weissman)は,急性転化したCML患者では,ガンの悪性化をもたらす特殊な突然変異が新たに起きたために,ある種の前駆細胞が自己複製能を獲得していることを示した。

細胞を分別する技術の登場

 この10年間で幹細胞が悪性化すること,またある種のガン細胞だけが幹細胞と共通するさまざまな形質を持っていることが確認された。 そのため腫瘍を成長させる原動力は,ガン細胞のうち幹細胞に似た性質の細胞であるという考えが強くなってきた。 このタイプの細胞は腫瘍の中では小さな集団に過ぎない。 この考え方は昔からあったが,以前は証明する技術がなかった。
 1960年代までには数人の科学者が,同じ腫瘍組織に含まれるガン細胞にも新たに腫瘍を作る能力に違いがあることに気付いていた。 1971年にカナダにあるトロント大学のパーク(C.H.Park)らは,骨髄腫でこのことを指摘している。 骨髄腫は骨髄にあるプラズマ細胞(形質細胞)のガンだ。 パークらは骨髄腫が最初に発生した場所,すなわち「原発巣」から採取して培養系に移した細胞集団でも,個々の細胞の増殖能が大きく異なることを明らかにした。
 この現象について,2通りの解釈が可能だったが,当時はどちらが正しいのかを断定することは技術的にできなかった。 1つの解釈は,すべての細胞が培養液中で増殖する能力を持っているが,たまたまその一部だけが増殖を開始したという考え。 もう1つは,腫瘍組織中には細胞の階層性があり,ガン幹細胞が増殖能力を持たない細胞(造腫瘍性のない細胞)を作り出しているという考えだ。
 すでに1967年にはシアトルにあるワシントン大学のフィアルコ(Phillip J.Fialkow)が,幹細胞モデルが白血病の病態モデルとして正しいとみられることを示していた。 フィアルコが細胞の表面にあるG-6-PDというタンパク質を手がかりにして細胞の系列を調べたところ,何人かの女性の白血病患者では,造腫瘍性細胞も,造腫瘍性のない分化が進んだ子孫細胞も,すべて同じ親細胞から作られていることがわかった。
 これらの初期の研究はガンの幹細胞モデルを進展させる上では非常に重要だったが,当時の技術では1つの腫瘍内にあるさまざまな細胞集団を単離して調べることは不可能だった。 だが1970年代初めに幹細胞生物学にとって重大な進展があった。 さまざまな種類の生細胞集団を,細胞表面のタンパク質を目印にして種類別に自動的にふるい分ける「フローサイトメーター」という装置が発売されたのだ。
 1990年代には,2つめの重大な進歩があった。 自己複製を確実に調べる方法の登場だ。 それまでヒト細胞の自己複製を分析する方法は確立されていなかったが,スタンフォード大学のワイスマンとトロント大学のディック(John E.Dick)はヒトの正常な幹細胞をマウスで成長させる方法を開発した。 ディックはこの新しい手法とフローサイトメーターを用いて,白血病のガン幹細胞の同定に関する独創的な論文を1994年から次々と発表している。 2003年にはジョンズホプキンズ大学のジョーンズ(Richard Jones)が多発性骨髄腫のガン幹細胞を同定した。
 その年の初めにはミシガン大学アナーバー校の私たちのグループも,固形腫瘍中にガン幹細胞が存在する証拠を初めて発表した。 私たちはヒトの乳ガン組織から得た細胞を種類ごとの集団に分け,それぞれをマウスに移植してみた。 すると,移植した細胞の種類によって新たに腫瘍組織を作る能力が異なることがわかった。 マウスの身体という新しい環境で人の乳ガンと同じ腫瘍を再び作ることができる細胞はほんの一部だった。 細胞の形態的・生理的な特徴をマウスにできた新たな腫瘍と患者のもとの腫瘍とで比べたところ,両方の腫瘍は同じ特性を持っていた。
 この発見から,移植された造腫瘍性細胞は自己複製するだけでなく,もとの腫瘍に含まれていた造腫瘍性のない細胞など,そのほかのさまざまな種類の細胞をすべて作り出せることが明らかになった。
 血液系のガンで見つかったのと同じような細胞の階層性が乳ガンにも存在することが,私たちのこの研究で証明された。 それ以来,ガン幹細胞生物学の研究は爆発的な広がりを見せ,他のガンでも同じような造腫瘍性細胞が世界中で次々と発見された。
 例えば2004年にトロント大学のダークス(Peter Dirks)らは,ヒトの中枢神経系の原発性腫瘍から,まったく同じ腫瘍をマウスに作る細胞を見つけた。 さらにダークスは,ヒトの脳腫瘍でも特に進行の速い髄芽腫では,それほど悪性度の高くない脳腫瘍に比べてガン幹細胞と見られる細胞の数が非常に多いことを明らかにしている。

環境からのシグナル

 最近盛んに研究が行われている関連分野でも,ガン幹細胞モデルを裏付ける証拠が見つかっている。 幹細胞やガン幹細胞は「ニッチ」と呼ばれる特殊な微小環境に存在し,ここではさまざまなシグナル伝達が行われている。 このニッチがガンの発生と維持に大きく影響しているらしい。
 幹細胞だけでなく普通の正常な体細胞の研究からも,周囲の組織や細胞外マトリクス(細胞と細胞の間を埋めている基質)から出たシグナルが,細胞の特性を維持したり行動を指示したりする上で重要な役割を果たしていることが明らかになっている。 例えば正常な細胞を身体から取り出して培養系に移すと,分化によって得た機能の一部を失ってしまう。 幹細胞の場合は対照的に,分化を抑制するシグナル因子を含む培地で培養しないと,すぐに分化と増殖が始まってしまう。 まるでそれが最初からプログラムされていた行動であり,ニッチのシグナルだけがそれを制御できるかのようだ。
 体内の幹細胞ニッチは文字通り孤立した飛び地のようなもので間質細胞(骨髄を埋めている結合組織を作っている細胞)など特定の種類の細胞に取り囲まれている。 幹細胞は小数の例外を除いて常にニッチの中にとどまっており,接着分子によって実際にニッチにくっついていることもある。 一方,幹細胞が分裂してできた前駆細胞は分化が進むとニッチを離れて移動するが,このとき移動を補助する細胞を伴なう場合が多い(文末の監修者ノートを参照)。

続々と見つかってきたガン幹細胞

 生きているガン細胞を分類して,自己複製能を持っているかどうかを調べる技術が開発され,ガン細胞集団の中からガン幹細胞を確実に見つけ出せることができるようになってきた。 下のリストにあげたガンでは悪性の幹細胞の存在が判明しており,これらの細胞は自己複製能を持ち原発巣で見られるすべてのタイプの細胞を再び作り出すことができる。
ガンの種類(ガン幹細胞が同定された年)
急性骨髄性白血病(1994)
急性リンパ性白血病(1997)
慢性骨髄性白血病(1999)
乳ガン(2003)
多発性骨髄腫(2003)
脳腫瘍(2004)
前立腺ガン(2005)
食道ガン(2005)
また腫瘍がほぼ完全に破壊された場合でも,最初と同じガンを再び作り出すこともできる。 つまりは,再発の恐れがあるわけだ ガンを根絶するにはガン幹細胞をうまく狙い打ちできるような治療法が必要だろう。

 幹細胞の未分化な状態を維持し,必要になるまで増殖を抑えておくうえで,ニッチからの環境シグナルはきわめて重要な働きをしている。 ガン幹細胞についても,これと同様の局所的な環境シグナルが増殖を抑制している可能性がある。 例えば,突然変異を起こしてガン化しやすくなった幹細胞を新しいニッチに移植しても腫瘍は発生しないことが実験で示された。 反対に正常な幹細胞を,予め放射線でダメージを与えた組織環境に移植すると,今度は腫瘍が発生することがわかった。
 幹細胞とニッチの間のシグナル伝達経路に関与する遺伝子の多くはガンとも関係がある。 このことからも最終的な悪性化が起きるときにはニッチが何らかの役割を果たしていると考えられる。 例えばガン幹細胞の拡散をニッチが食い止めているのだとすると,何らかの変化がニッチに生じて大きくなると,ガン幹細胞そのものも広がってしまうことになる。
 2つめの可能性はある種の発ガン性突然変異によって,ガン幹細胞の数が増え,原発巣を超えて転移して広がることになる。
 さらに3つめの可能性としては,ガン幹細胞が突然変異によってニッチのシグナルを完全に無視するようになり,周囲の環境による制御が効かなくなることが考えられる。

再発の危険性との関係

 ガン幹細胞モデルは悪性腫瘍に研究や治療に大きな影響を与えるだろう。 現在の治療法はすべてのガン細胞を標的としている。 だが私たちの研究を含むさまざまな研究から,悪性腫瘍を再構成して存続させられるガン細胞はほんの一部であることが明らかになった。 従来の治療法で腫瘍が小さくなっても,これらの細胞が残っていれば再発のおそれがある。 一方で,ガン幹細胞だけを標的とする治療が確実にできれれば,ガンの原因を絶てるかもしれない。 造腫瘍性を持たない細胞は,治療の標的にしなくても,そのまま自然に死に絶えてくれるだろう。
 状況証拠ではあるが,こうした考え方を裏付ける臨床データがある。 例えば睾丸ガンでは抗癌剤の投与後に患者の腫瘍を調べて薬の効果を評価する。 腫瘍に含まれるのが成熟した細胞だけならば,再発しないことが多いので,治療はそこで終わりになる。 しかし,未熟に見える,言いかえれば完全には分化していない細胞が腫瘍組織に多数存在している場合は,再発の恐れがあるため,さらに治療を続けるのが普通だ。 これらの未熟細胞が体内にガン幹細胞が残っていることを示すものなのかどうかはまだ検証されていない。 作られて間もない子孫細胞である可能性も残っている。 だが,未熟な細胞の有無と疾患の予後との関連性は,はっきりしている。

治療をはじめる前にガン幹細胞を特定せよ

 正常な細胞系列では分裂に伴なって,幹細胞に近い未分化な状態から分化の進んだ細胞へと変化していく。 ところが私は培養している食道ガン細胞から,より未分化な状態へと逆方向の変化を示した細胞を分離した(このような変化を「脱分化」という)。 いわば,幹細胞に近いほうへ戻った細胞だ。
 DNAチップ(マイクロアレイ)を使ってヒトのほとんどの遺伝子をカバーする2万2000個の遺伝子の発現を解析したところ,この脱分化に伴なって発現が変化している遺伝子はわずか405個に過ぎなかった。 この結果は,全体から見れば小数の遺伝子の発現を変えるような後天的な変化が,ガン組織中の細胞をより悪性化させる原因であることを示唆している。
 食道ガンはある程度,進行してから発見されることが多く,その治療には放射線療法がよく用いられている。 しかし,患者の5年後の生存率はわずか6~12%ときわめて予後が悪い。 早期(ステージ1)の食道ガンは発見が非常に難しいが,放射線治療が有効とされている。 しかし,それでも5年生存率は62%にすぎない。 その原因として,放射線に耐性のあるガン細胞の存在などが挙げらあれているが,私はそれとは別に,食道ガンでは治療のための放射線照射がガン幹細胞の脱分化を促進し,より転移脳の高い細胞へと変化させてしまっているという仮説を立てている。
 私はすでに放射線照射によってガン細胞の脱分化が促進されることを確認している。 予備実験ではあるが,脱分化の進んだガン細胞に2グレイの放射線を照射して,それらの細胞中の2万2000個の遺伝子の発現を調べたところ,運動性に関与する遺伝子やある種のタンパク質分解酵素の遺伝子で転写が高まっていた。 運動性の高さとタンパク質分解酵素の産生能は,転移性細胞の大きな特徴だ。 これらの結果は,放射線照射されたガン幹細胞が転移性の高い細胞へと変化してしまうという私たちの仮説を指示している。 したがって,ガンの治療をはじめる前にガン組織中のガン幹細胞の有無と位置,その量を知ることはきわめて重要だろう。
 ガン幹細胞を取り除くためには,まず腫瘍組織中にガン幹細胞が存在するかどうか,もし存在するのならばその脱分化の程度を定量する技術を確立しなければならない。 これを目的として,ガン幹細胞に特異的あるいは有意に高く発現しているタンパク質を検索する研究が急ピッチで進んでいる。 そのようなマーカーとなるタンパク質が見つかれば,これらに結合する抗体を使うことによって,ガン幹細胞の分化程度を簡単に定量化できるようになる。 ガン幹細胞の基礎研究が発展することはいうまでもないが,それらの抗体を使えば,ガン幹細胞と正常細胞を分けることが可能になるので,ガン幹細胞だけに作用するような治療薬や放射線増感剤の開発などが大いに進展すると期待できる。 ガン幹細胞を選択的に取り除けるようになれば,放射線あるいは薬物によるガン治療の成績が飛躍的に向上すると期待される。
伴貞幸

特徴をつかむ

 残念ながら幹細胞を見ただけで区別する方法はない。 ガン幹細胞に特有な性質を理解するには,まずこれらのまれな細胞を単離する技術を改良しなければならない。 ガン幹細胞を識別できる特徴がわかれば,それを元にしてガン幹細胞を狙い打ちにするような治療法を開発できる。 例えばある種のガン幹細胞が,どんな突然変異や環境要因の変化によって自己複製能を持つようになるのかわかれば,それを標的にしてそのガン幹細胞を叩き,腫瘍の拡大を抑えることができるだろう。
<後略>


監修者ノート
 原文は幹細胞の移動にはGuerdian cellsを伴なうとあったが,これに相当する特定の細胞は知られていない。おそらく,移動の補助をする細胞をさしていると思われる。 例えば,骨髄幹細胞が動因に応じてニッチを離脱し,末梢血へと移動する場合には,基底膜を構成するコラーゲンというタンパク質を分解することができない。このため単独では規定幕を通過できず,免疫細胞系の顆粒球やマクロファージなどの助けを借りることになる。これらの細胞はコラーゲン分解酵素を作り出せるからだ。こうした事情から,ニッチから離れたばかりの骨髄幹細胞が移動するときには,顆粒球やマクロファージを伴なって基底膜を通過すると考えられている。 注記終了(本文へ)

監修 伴貞幸(ばん・さだゆき)
放射線医学総合研究所企画部国際・交流課課長,医学博士。2005年に食道ガンの幹細胞を発見したことで知られる。


著者
Michael F. Clarke/Michael W. Becker
2人はミシガン大学アナーバー校のクラークの研究室でともに研究をしていた。この研究室では2003年に乳ガンの幹細胞が初めて同定された。現在クラークはスタンフォード大学の幹細胞生物学・再生医学研究所の副所長で,ガン生物学と内科学の教授を務める。クラークはガン幹細胞の同定と,これらの細胞が正常な幹細胞と同じように再生するメカニズムの解明を続けている。ベッカーはロチェスター大学医療センターの血液学・腫瘍学部門の内科学助教授。おもに白血病幹細胞の特徴を調べており,臨床では末梢血や骨髄の移植を手がけている。


原題名

Stem Cells: The Real Culprits in Cancer ?   (SCIENTIFIC AMERICAN July 2006)

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by bucmacoto | 2001-07-01 00:40 | quote/data
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