2009年 10月 19日
orion流星群の夜です。
流れ星が消えてしまうまでの刹那に、三回おなじ願い事を唱えると、その願いが叶うのだという言い伝えがあります。 あなたも耳にしたことがあるでしょう。 けれど、それって恐いことだと思いませんか? ぼくは小学校時代からの友人であるSYのところへ見舞いにいった。 特に親しいということもなかったが、人づてに 「ノイローゼらしい」「自殺未遂やったんだってさ」といった話だけは聞こえてきた。 もう10年ぶりになるだろうか、SYは元から大柄なほうではなかったが、やや小ぶりなその身体はいっそう小さくなったようにぼくには見えた。 もしかしたら中年体型という恰幅のよさ(まぁメタボだねぇ)が自分に備わってきたから、より強くそう感じたのかもしれない。 今夜はオリオン流星群の夜だ。 夜半から極大を迎えるらしいが、あいにく雲に覆われそうな空模様である。 衛星画像と天気図と首っ引きでそう思った。 ぼくはあまり流星群には縁がない。 小学校5年のときに 「ジャコビニ流星群」 のことを新聞記事で読んで、頑張って夜半まで起きていたけれどほとんど見られなかった。(後で親に尋ねたらハズレの流星群だったらしい) 『流星雨』 という言葉に期待を膨らませていただけに、がっかりだった。 しし座流星群だって雲が多くて、千歳の空が開けた場所まで車で息子と二人で走って、せいぜい30個ほどの星が見られただけだった。 一晩中夜空を眺めていたら、普段でも最低数個は目にできるのだから、やはり 流星群の夜には同時にいくつもの軌跡を見たいと思うのは欲張りなのだろうか。 SYにはあまりに久しぶりに会ったので、共通の話題なんて見つからなかった。 そこで、夜空の流星の話なんて始めたわけだが、そこでぼくは話題の選択を誤ったことを知った。 「おまえ、何を知っている? 何のために来た?」 その声は震えていた。 「星? 願い事が叶う? 夢が実現する? もうたくさんだ! もううんざりだ!」 SYは精一杯の 強がった声を絞り出すように、そう言った。 結局、僕がSYのことをなだめて聞き出せた話は次のようなものだった。 山師の要素がSYにはあった。 一発あててやろうという、そういう要素のことだ。 「競馬で百万円儲ける方法」だとか「必ず家が手に入るギャンブルの秘伝」だとか、そういった本を肌身離さずにいるような傾向があったというわけだ。 そんなSYが、ある夜、スナックの最終時間まで粘っても口説き損ねてふて寝気味に寝そべったある夜のことだった。 空にぽつんと現れた光球が、左下にゆっくりと空に軌跡を描いて進んでゆくのを目にした。 「ゆめ ユメ 夢」 SYは咄嗟に三回おなじ言葉を唱えていた。 その言葉が最後まで発音されたその後で、光球は突然に光量を増し辺りを一瞬照らして消えた。 『お~言えたぞ。。 本当に言い伝えどおりなら、オレの夢はこれでことごとく実現するってことだな。 ┗┓ ̄旦 ̄┏┛フフフ』 そうほくそ笑んで、冷たいアスファルトの感触を楽しみながら道路に寝入ってしまった。 そして、SYは気がついたのだった。 崖から落ちる夢(これは夢判断では吉夢だといわれる)を見た後に、SYは転落事故で左大腿骨骨折と坐骨骨折と膀胱損傷で3ヶ月の入院を経験した。 ホラー映画を観た後で、テレビから髪の長い女がのそりと現れる悪夢を見た後で、SYは現実にそれを目にした。 SYは夢を見ることが、恐くておそろしくて仕方がなくなってしまった。 そして恐怖という感情は、暖かさや感謝といったプラスの気持ちを帳消しにするものだということに、SYは気付かずにはいられなかった。 美しい女優と恋仲になる夢を見たその続きで、極道じみた芸能プロらしき男に追い回された。 宝くじに見事当選した夢が実現した直後に、そのカネを目当てにした親類や昔の同級生や以前の職場仲間に、徹底的にむしられた夢まで見てしまった。 『夢が何もかも叶うようにと願うなんて、 なんてバカなことをしたんだろう。』 SYは、最後に、そう呟いていた。
by bucmacoto
| 2009-10-19 21:50
| illusion rhapsody
|
Comments(5)
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bucmacoto at 2009-10-20 07:16
追記:
リアルで観測に行くつもりで、真夜中2:30に目覚ましでおきてみました。 残念ながら雲が多かったので、即座に再び ぐぅぐぅぐぅ zzz.
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jemini-web at 2009-10-21 00:37
中学校の時のクラブの顧問は
「流星群の夜に『カネカネカネ...』(お金、の事ね)とでも言い続けながら観測でもしてないと、願い事なんて物理的に言えるスピードじゃない」 と主張してましたけどね(笑) ...本題とは少し離れた部分で、ですけど、ちょっと影響を受けて一つお話しを書かせて頂きました~。
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bucmacoto at 2009-10-21 18:47
Ω ぢぇみに さま
この光球となった流れ星の部分だけは、実際に私の経験なんですよね。 しっかり3回くらい唱えられる時間、光っていました。 なんというか・・・花火がふわぁっと枝垂れるみたいな光り方をしたのです。 お話の感想は、そちらのほうに書かせていただきます。
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fossil1129 at 2009-10-21 22:41
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bucmacoto at 2009-10-21 23:38
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