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脳の中の幽霊 PHANTOMS IN THE BRAIN PROBING THE MYSTERIES OF THE HUMAN MIND
2007年 11月 20日
1st. written at 2007.11/20 0:14
last edit and open at 2007.11/21


脳の中の幽霊 V.S.ラマチャンドラン, サンドラ・ブレイクスリー著 ; 山下篤子訳 -- 角川書店, 1999.7, 333, 71p.

相変わらずこれを、行きつ戻りつしながら読んでいる。

私の科学的バックーボーンとなる知識は、脳~こころ に関しても日経サイエンスの本である。
 心理学・人類学・考古学
 医学・生物学
他にミステリー仕立てで面白く読みやすいながら科学的整合性もあったBRAIN VALLEYもある。

一方、こちらラマチャンドラん博士の方は 臨床症例集とも呼べる珍しい例が満載でありながら、本のはじめの方に誰もができる心理学実験(網膜~盲点)などがあり、すんなり入っていける感じだ。
豊富なエピソードが興味深い。

読み進んで第十一章 「双子の一人がおなかに残っていました」 では想像妊娠について書いてある。 また二重人格・多重人格症例に関しても触れられている。
 幻の妊娠(phantom pregnancy)に想像妊娠(pseudocyesis : シュド psudo- は にせを意味する 例 pseudolumen : 偽腔 < 真腔に対する反語という名をつけたのは、幻肢(phantom limb)の名付け親と同一人物(サイアス・ワイアー・ミッチェル博士)であるそうだ。
 1700年代に200人に1人もあった想像妊娠が、現在では1万人に1人にまで減っていること。
 さらに想像妊娠の臨月(!)までの経過が記載されている。
 想像妊娠中は、月経が止まり、おっぱいが膨らみ、乳首の色素が増え、つわりがあり、妙な食べ物が欲しくなり(異食)、おなかが次第にふくらみ、『胎動を感じて』、陣痛にまで至るという。 また、必ずではないが子宮口の拡大にいたることすらときどきみられるらしい。

 願望や思い込みが錯覚だけにとどまらず、実際に身体に変化を及ぼす例はさまざまにある。
 花粉症でバラの花でくしゃみが止まらなくなる人は、そのうちに(花粉も匂いもない)バラの写真に対して花粉を誘発されるようになる場合がある。 それでは、クスリと同時に適当な刺激を与えたらどうなるか? 例えば、抗ヒスタミン薬とかステロイド噴霧と同時に、ひまわりの造花を見るようにしたら、いずれは発作時にひまわりの造花で発作を止められるのではないのか?
 これをラマチャンドラン博士とは別に、ラットで実験した例が書かれている。 吐き気(そして免疫低下)を引き起こすクスリと甘味料のサッカリンを同時にラットに与え続けたなら、ラットはサッカリンに対してどういう反応を引き起こすようになるだろうか?
 結論を言えば、ラットは(無害な)サッカリンに対し忌避する反応(つまり吐き気)を示すようになると同時に、さらに免疫活性の低下も見せるようになったのだそうだ。

 条件反射を使って、無関係なものを関連付けるという手法は、教育・宗教・洗脳などあらゆる教え込みで使用される方法だが、精神的な成り立ちが免疫系(ここは無意識の領土とも思える)に支配的な影響を及ぼすことは面白い。
 ※ ただし博士は、「心が不治の病を治す」 という考えには相当に懐疑的であると明言する

 このような、人間の心理~身体の関係をざっと把握する入門書として、私が以前読んだものからひとつ上げるなら、
  脳と心のミステリー 心はなぜ病むのか:日経サイエンス
 研究発展中の分野なので教科書的ではない(最新知見からすると解釈に疑問なものもある)が、総じてこなれた読み物でありながら科学的に妥当と思います。 個人的に推奨します。


ほかにも、先の記事で触れた幻肢、瀬名のBRAIN VALLEYでも触れられていた側頭葉てんかんと宗教体験(神や宇宙との一体感)など、興味尽きない話題が満載。
それらを平明にひも解き,そして実験による検証を添えられた本書は名著であると思います。

 よし、これはライフログに入れておこう ^^

このラマチャンドラン博士は、ユーモア・エスプリのセンスもよい。
進化心理学(以前は社会心理学と言われていた学問の流れを汲む)の 「実験的に検証困難な命題を仮説として提出すること」 に対する風刺として、ある日の午後に書き上げて提出した説をmore欄に引用紹介したい。 これはつまり学術的裏づけのない俗説として書いたものだ。
 なんとシャレで出したこれが、提出先に受理されてしまったというのが笑えた ^^
 この方は リチャード・ドーキンス氏と違い、宗教界に挑発的な態度をとらない方のようだが、もしもドーキンス氏のような "率直さ" で宗教的な諸説に風刺をしたらどんなものが読めるのか興味がわいた。




巻末 56p 原注5

V.S.Ramachandran,1997. みながうのみにした話を紹介する。
「なぜ男性はブロンドを好むのか?」 と考えてみよう。 西洋社会では、男性が性的にも美的にもブルネット(髪や皮膚や目の色が黒みがかった人)よりもブロンド(金髪碧眼で色白の人)を好むと広く信じられている(Alley and Hildebrandt, 1988.)。 これに似た好みとして非西洋社会では、肌の色が平均よりも明るい女性が好まれる傾向がある。 (このことは 「科学的な」 調査で正式に確認されている ── Van Der Berghe and Frost, 1986)。 実際、多数の国々で[、とりつかれたように 「容姿の向上」 に没頭する現象が見られる ── 化粧品業界はこの異常な執心に迎合して,おびただしい数の無用の製品をつくる。 (おもしろいことに、明るい肌の男性を好むという傾向は見られない。 よって男性用のフレーズは 「背が高くて肌黒いハンサム」 となる。)
 著名な米国の心理学者ハヴロック・エリスは50年前に、男性は(多産能力を示す)まるまるとした女性を好み、ブロンドの髪は体の外形に溶け込んで丸みを強調すると述べた。 別の見解として、乳幼児の皮膚や髪の色は成人よりも明るい傾向があるので、ブロンドの女性が好まれるのは、人間の場合、幼生成熟的な赤ん坊のような特徴が女性の二次成長となることを反映しているだけだという意見もある。
 私は第三の説を提唱したい。 この説は先の2つと両立しないわけではないが、より一般的な生物学的な説である配偶選択と調和するという長所がある。 しかし私の説を理解するには、そもそもなぜ性が進化したかを考えなくてはならない。 無性生殖をすれば自分の遺伝子を半分だけではなく全部、子供に伝えられるのに、なぜ無性生殖をしないのか? 驚いたことに、性はおもに寄生虫を避けるために進化したという(Hamilton and Zuk, 1982.)! 寄生虫の感染は自然界ではごくあたりまえのことで、寄生虫は常に宿主の免疫系をだまして自分を宿主の体の一部と思い込ませようとする。 性は宿主側の生物が遺伝子を混ぜあわせるのを助け、つねに寄生虫の一歩先をいくために進化した。(これは赤の女王戦略と呼ばれる。「不思議の国のアリス」に登場する、同じ場所にとどまるためにいつも走っている女王からヒントを得た用語である。) 同様に、雄クジャクの尾羽や雄鶏の肉垂れのような二次成長が進化した理由も、これまた寄生虫である。 これらのディスプレイ(輝く大きな尾羽や真っ赤な肉垂れ)は、求愛者が健康で、皮膚を寄生虫におかされていないことをメスに 「知らせる」 という役割をはたしていると考えられる。
 ブロンドや明るい肌も同じ役割を果たしているのではないだろうか? 医学生ならだれでも承知していることだが、ふつう腸や血液中の寄生虫が原因となる貧血、チアノーゼ(心臓病の兆候)、黄疸(肝臓病)、それに皮膚病などは、皮膚の色が明るい人のほうがブルネットの人よりも見分けがつけやすい。 これは皮膚にも目にも言えることである。 古代の農耕定住地では腸の寄生虫感染はごくあたりまえのことだったはずだが、こうした感染は宿主に重度の貧血を起こす場合がある。 貧血があると妊娠や健康な子供の誕生の妨げになりうるので、適齢期の若い女性の貧血を早期に見分けることにかなりの選択圧がかかったはずだ。 ブロンドは事実上、「私はピンクで健康で寄生虫はいません。ブルネットを信用しないように。 病気や寄生虫感染が会っても隠せるので」 と眼に語りかけているのだ。
 この好みの第二の理由として考えられるのは、ブロンドの皮膚はメラニンによる紫外線からの保護がないために、ブルネットよりも 「老ける」 のが早く、皮膚の老化症状(しみやしわ)も目立ちやすいことだ。 女性の生殖能力は年齢とともに急速に低下するので、男性は性のパートナーとして若い女性を好むと思われる(sTUART aNSTIS 私信)。 したがってブロンドが好まれるのは、老化の兆候が早くあらわれるからだけでなく、兆候を見つけるのが容易であるからだと考えられる。
 第三に、恥ずかしがったり赤くなったりといったある種の性的関心の外的兆候や、性的興奮(オーガズムの「紅潮」)などは、皮膚の色が暗い女性のほうがわかりにくい。 従ってブロンドの女性に求愛したときのほうが、求愛のそぶりに対する反応がわかりやすく、うまくいくかどうかの予測により大きな自信がもてる。
 明るい肌の男性に対する好みが顕著でないのは、貧血や寄生虫が主として妊娠中のリスクであり、男性は妊娠しないからではないかと考えられる。 さらにブロンドの女性はブルネットの女性に比べて、情事をもった直後に嘘をつくのが難しい。 恥ずかしさや罪の意識で赤面してばれてしまうからだ。 男性は相手の不義をおそれているので、女性のこういう赤面を察知するのは特に重要なことである。 一方,女性はそんな心配はいらない ── 女性の主たる目標は、いい扶養者を見つけて確保しておくことだからだ。(この男性の妄想はいわれのないことではない。 最近の調査によれば、遺伝的な父親ではない父親が5から10パーセントもいるという。 どうやら牛乳屋の遺伝子は、考えているよりもたくさん世の中に存在するようだ。)
 ブロンド好みの最後の理由は、瞳孔に関するものである。 ブロンドの青い虹彩のほうがブルネットの黒い虹彩よりも、瞳孔の拡大 ── これも明白な性的関心の兆候である ── がはっきりとわかる。 ブルネットの女性がしばしば 「なまめかしく」 て謎めいているとされるのは、このためかもしれない。(あるいは女性がベラドンナで瞳孔を拡大したり、男性がキャンドルの灯りで女性を誘惑する理由もここのあるのかもしれない。ベラドンナや薄暗い灯りは瞳孔を拡大し、性的関心のディスプレイを高めるのだ。)
 もちろん以上の議論は明るい肌の女性すべてに同じようにあてはまる。 ではブロンドの髪は、もし本当にちがいがあるなら、どんなちがいがあるのだろうか。 明るい肌が好まれることは調査で確認されているが、ブロンドの髪の問題はまだ研究されていない。(脱色したブロンドもあるが、それは議論には影響しない。 進化は過酸化水素が介入することを予知できないからだ。 さらに言えば「偽のブルネット」というものがなく「偽のブロンド」)だけがあること自他、好みが存在することを示している。 なんと言ってもブロンドの女性で髪を黒く染める人はめったにいないのである。) 私の見解を言えば、ブロンドの髪は明るい肌の女性がいることが遠くからでも男性にはっきりとわかるように「旗」の役割をはたしているのだ。

お持ち帰り用のメッセージ:男性がブロンドを好むのは、生殖能力や子供の生存能力低下させる、寄生虫感染や老化の初期兆候を見つけやすいからであり、また性的関心や貞節の指標となる顔の紅潮や瞳孔の大きさを見つけやすいからでもある。(1995年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校のすぐれた進化心理学者 Don Symon は、明るい肌そのものが若さとホルモンの状態を示す標識であるという考えを提唱している。 しかし彼は、ここで述べたような、ブロンドのほうが寄生虫や貧血や紅潮や瞳孔拡大を容易に検出できるといった具体的が議論はしていない。)

 先に述べたように、私がこのばかばかしい話をでっち上げたのは人間の配偶者選択に関するその場かぎりの社会生物学的な理論 ── 進化心理学の大黒柱 ── にたいする風刺としてである。 この話は10に1つの可能性もないと思っているが、それでも最近はやっている人間の求愛に関する数多くの説と同程度の見込みはある。 私がでっちあげた説をばかばかしいと思われたかたは、ほかの説をいくつか読んでみるべきだと思う。

上記をしゃれでなく真に受けかけた私は、正式な科学者にならなくて正解だったのかもしれない w
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by bucmacoto | 2007-11-20 00:14 | quote/data
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