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sensitive retina of bird (ISSN 0917-009X 引用文)
2001年 07月 02日
(ISSN 0917-009X) 2006年10月号より備忘録として記録した引用文です。
post at 2006.11/18
last edit and move at 2006.11/19


鳥たちが見る色あざやかな世界


私たちは赤・緑・青を光の三原色と呼んで,この3色をベースに世界を見ている
しかし鳥やトカゲなどには紫外線も見えており,はるかに彩り豊かに世界を眺めているはずだ
私たちには”見えない”色を鳥たちはどのように使っているのだろう

T. H. ゴールドスミス

 人間は,えてして自分たちの視覚システムが進化の頂点にあると思いがちだ。確かに視覚のおかげで私たちは立体的に物を見ることができるし,遠くからでも物を見つけることができ,安全に動き回ることもできる。 また,視覚のおかげで一人ひとりをはっきりと識別できるし,相手のちょっとした表情から感情を読み取ることもできる。 しかし実は私たちは視覚に大きく頼るあまり,嗅覚や聴覚などを主体にした動物の世界があることをなかなか想像できない。 例えば夜にエサを探すコウモリはどうだろう。 彼らは自身の発する高周波音の反響を手がかりに小さな昆虫を見つけることができる。 私たちの想像を超えた感覚世界ではないか。
 色覚について私たちが知っていることは,当然ながら,人間が見ることのできる世界に基づいている。 ヒトを対象にした実験は動物を相手にするよりもはるかに容易だ。どんな色とどんな色が同じに見えるか,あるいは違って見えるかなど,人間ならば簡単に答えてくれる。 しかし,実は哺乳類以外の多くの脊椎動物は,ヒトには見ることのできない光の波長領域,すなわち近紫外線領域(300~400nm)も見えている。 科学者たちはニューロンの発火の様子から,さまざまな脊椎動物で近紫外線領域が見えている可能性に気がついていたが,実際にこのことが明らかになったのは1970年代の初頭になってからだ。
 紫外線視覚の発見は,英国エイヴバリー地方の領主ルボック(John Lubbock)卿という一人の大変優れた英国人が好奇心からはじめた昆虫での研究に端を発する。 ルボックはダーウィン(Charles Darwin)の友であると同時に,下院議員であり,銀行家であり,考古学者であり博物学者でもあった。 ルボックは1882年までに,アリは紫外線を当てられると自分達の蛹(さなぎ)を拾い上げて,暗い場所や,より長波長の光に照らされた場所に運ぶことを発見していた。 それを契機として1900年代の半ばに始まった研究で,オーストラリアの博物学者フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)とその弟子や孫弟子達が,蜂やアリは紫外線を1つの光として見ており,さらに方角を知るのに太陽からの紫外線を使っていることを示した。
 非常に多くの昆虫が紫外線を感知できることから,この視覚は昆虫に特有で,天敵である鳥には紫外線は見えないのだと,まもなく考えられるようになった。 しかし,これはまったく真実と異なっていた。 ここ35年間の研究により,鳥類やトカゲ類,カメ類,多くの魚類が網膜に紫外線受容体を持つことがわかってきた。 むしろ,紫外線を見ることのできない哺乳類が例外といえる。 なぜ哺乳類だけが違うのだろう? なぜ哺乳類の色覚は貧弱なのだろう? これらに答えるための研究から期せずして浮かび上がってきたのは,鳥類のきわめて豊かな視覚世界と,心奪われる進化の物語だ。

色覚はどう変化したか

 この発見物語を理解するには,生き物がどうやって色を感知するかについての基本を知っておく必要がある。 まず,よくある誤解を解いておこう。 多くの子供が学校で習うように,物体はある波長の光を吸収し,それ以外の波長は反射する。 そして私たちが”物体の色”と感じているものは確かに反射光の波長に関係している。 しかし,色は光そのものについているのではないし,物体そのものの属性でもない。 色とは脳の中で生じる感覚なのだ。
 脊椎動物の色覚は眼球の内壁にある網膜で光を受けることから始まる。 網膜は神経細胞の層で,ここから脳へと視覚信号が送り出される。 網膜の神経細胞のうち,光を感受する視細胞には「錐体視細胞」と「桿体視細胞」の2種類があり,色覚を担っているのは錐体視細胞のほうだ。
 それぞれの錐体視細胞には光の受け手となる「視物質」があり,これはオプシンというタンパク質(何種類かのタイプがある)とビタミンA誘導体のレチナールという小分子からなる。 視物質が光(正確には光子と呼ばれるエネルギーのまとまり)を吸収すると,吸収されたエネルギーはレチナールの構造変化を引き起こし,それが一連の分子レベルのシグナル伝導を引き起こして,錐体視細胞が興奮する。
 次に視細胞の興奮が網膜ニューロンの活性化を引き起こす。 網膜ニューロンからのインパルスが視神経に伝わって,受け取った光についての情報として脳へと伝達される。
 光が強いほど多くの講師が視物質に吸収され,それぞれの錐体視細胞が強く興奮して,光はより明るいと感じられる。 しかし1つの錐体視細胞が伝達する情報量には限界がある。 実は,どの波長の光を受け取って興奮したのかという情報は含まれない。 では,色はどのようにして脳で知覚されるのだろう? そのヒントは視物質にある。
 視物質はそれぞれ特定の範囲の波長を他の波長よりもよく吸収する。 そして個々の視物質は波長別の吸収の度合いを表す吸収スペクトルによって特徴づけられる。 1個の視物質は異なる波長,異なるエネルギーの光を吸収できるが,錐体視細胞はそれらを区別できない。 どちらの光もレチナールの構造変化を引き起こし,一連の反応を経て,細胞を興奮に導くという点では同じだからだ。 個々の錐体視細胞は吸収した光子の量に応じて興奮の度合いを変えるだけで,ある波長を別の波長と区別することはできない。 したがって,強いが吸収の悪い波長の光にも,弱いが吸収のよい波長にも,錐体視細胞は同じように興奮する。
 ここから重要なことがわかる。 2種類以上の錐体視細胞の応答を比べないと,脳は色を知覚できないのだ。 網膜に3種類以上の錐体視細胞を持つことにより,異なる色を見る能力がより一層向上する。 錐体視細胞の種類の違い,つまり視物質の違いを決めているのは,主にオプシンだ。
 オプシンを調べれば色覚の進化をたどることができる。 具体的には,オプシンをコードする遺伝子の塩基配列を調べ,同じ種でのタイプの違うオプシンや違う種でのオプシンを比較すると,それぞれのオプシン同士の進化系統上の関係がわかる。 そうやって出来上がった進化系統樹から,オプシンは非常に起源の古いタンパク質であることがわかった。 今日地球で繁栄している主要な動物群が出現する以前から存在していたのだ。
 さらに,脊椎動物ではその共通祖先がすでに4タイプの錐体視細胞をもっていたことがわかっている。 この4タイプは最も敏感な波長域から長波長タイプ,中波長タイプ,短波長タイプ,紫外線タイプと呼ばれる。 おもな脊椎動物はこれら4タイプの錐体視細胞に加えて桿体視細胞を持つ。 桿体視細胞にはロドプシンという視物質があり,これは感度が高いので薄暗い場所での視覚に重要だ。 ロドプシンは中波長タイプの錐体視細胞に構造と吸収波長の両方の点で似ており,何億年も前に中波長タイプの錐体視物質から枝分かれして進化したと考えられている。
 鳥類は前述の4タイプの錐体視物質をすべて持ち,それらは互いに吸収波長が異なる。 一方,典型的な哺乳類は4タイプのうちたった2タイプの錐体視物質しか持っていない。 1つは紫色域,もう1つは長波長域に最も高い感受性を示すタイプだ。 これは,中生代(2億4500万年前から6500万年前)に進化の初期にあった哺乳類が小型でこそこそ動く夜行性動物だったためと考えられる。哺乳類の目は夜に適応しながら進化し,暗くても高感度の桿体視細胞に大きく頼るようになったが,色覚はそれほど重要ではなくなっていったのだろう。 その結果,哺乳類は祖先がかつて持っていた4タイプの錐体視物質のうち2タイプを失った。 対照的に,ほとんどの爬虫類と鳥類では,今も受け継がれている。
 6500万年前に恐竜が姿を消したことは,哺乳類に新たな特殊化の機会を与え,哺乳類の多様化が始まった。 その一例が旧世界霊長類(狭鼻猿類)の祖先だ。 夜行性から昼行性となり,樹上にすみかを拡大し,果実を重要な食料とした。 花や果実は多くの場合,背景の葉と色が異なる。 しかし哺乳類は長波長タイプのし物質を1つしか持たないため,緑,黄,赤,の違いを見分けることが出来なかった。 ところが,旧世界霊長類の祖先は解決策を進化の道具箱から見出した。

   <後略>

 ※本文および図の著作権は日経サイエンス社に存在しています。



囲みとなっていた記事文章

ヒトの色覚

c0062295_23103590.gif 霊長類の中でもヒトを含めたあるグループは網膜に3タイプの錐体視細胞を持っており,これらの相互作用によって色を見ている。 それぞれの錐体視細胞には,ある特定の波長域の光を感じる異なる視物質が含まれる。 3タイプの錐体視細胞が最大の感受性を示す波長域は,順に約560,530,424nm(ナノメートル)だ。
 グラフ中の2本の垂直な線は視物質560が同じ程度に吸収する波長を示している。 波長500nm(色で言えば青~緑)の光線の光子は波長610nm(オレンジ)の光線の光子よりも多くのエネルギーを持つにもかかわらず,両方とも視物質560に同レベルの応答を引き起こし,したがって同じレベルの興奮を錐体視細胞に引き起こす。 このため,1タイプの錐体視細胞だけでは,吸収光の波長を脳は判断できない。 ある波長を別の波長と区別するには,能は異なる視物質を含んだ複数の錐体視細胞からのシグナルを比較する必要がある。 図の場合では視物質560では500nmと610nmの光に対して同じ反応を示すが,視物質530ではこの2つの光に対する反応が異なる。 これによって,脳は色を知覚できる。

色覚に秘められた進化の物語

  • 脊椎動物の色覚は網膜の中にどのタイプの錐体視細胞を持つかによって決まる。 鳥類は,トカゲ類やカメ類や多くの魚類と同じように,4タイプの錐体視細胞を持つ。 一方,ほとんどの哺乳類は2タイプしか持たない。
  • 哺乳類の祖先は4タイプすべての錐体視細胞を持っていた。 しかし,初期の哺乳類はおもに夜行性で,色覚は生存に必須ではなかったため,4タイプのうち2タイプの錐体視細胞を失った。
  • ヒトを含む旧世界霊長類の祖先は,長波長タイプの錐体視物質の遺伝子が重複し,さらに変異を起こした。 これによって第3の錐体視細胞を”再生”した。
  • しかし,ほとんどの哺乳類は今でも2タイプの錐体視細胞しかないため,哺乳類の色覚は,鳥類の視覚世界に比べると,明らかに限界がある。 例外的に3タイプをもつヒトやその近縁の霊長類の色覚でさえ,鳥に比べれば見劣りがする。

祖先の遺産を引き継いだ鳥類と途中で失った哺乳類

 現在生きている生物種のDNAを分析することで,科学者は時間をさかのぼり、錐体視物質が脊椎動物の進化の過程でどのように変わってきたかを調べてきた。 脊椎動物はごく初期の段階から視物質の異なる4タイプの錐体視細胞(色つきの三角形で示す)を持っていたと考えられる。 哺乳類は進化の初期に,夜行性だったと考えられている。 薄明かりの元では,錐体視細胞はそれほど重要ではなかったために,4つのうち2タイプの錐体視細胞を失った。 対照的に鳥類やほとんどの爬虫類は,吸収波長の異なる4タイプの錐体視物質を持ち続けた。
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 恐竜たちが死に絶えた後,哺乳類は多様化し始めた。 今日の旧世界霊長類(アフリカやアジアのサル類と類人猿,ヒトを含む)に至る系統では,2つのうちの1つの視物質で,遺伝子重複とそれに続く突然変異がおき,これによって第3の錐体視細胞が”再生”された。
ヒト系統樹
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 ヒトは霊長類のこの系統から進化したので,2タイプでなく,3タイプの錐体視細胞を持つ。 つまり,ほとんどの哺乳類と異なり,3色がた色覚を持つのだ。 これは進歩かもしれないが,鳥類の豊かな色覚には太刀打ちできない。

油滴───さらに色覚を豊かにするフィルター

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 鳥類など多くの脊椎動物の錐体細胞は,哺乳類の錐体細胞が失ったさまざまな特徴を今も持ち続けている。 それらのうち色覚にとって最も重要なのは油滴だ。 鳥類の錐体視細胞には赤,黄,ほとんど無色,透明の4種類の油滴が知られている。 アメリカコガラの網膜の顕微鏡写真(左図)には黄色と赤の油滴がはっきりと見て取れる。 黒の丸印は無色の油滴の一部。透明な油滴を除き,これらはいずれも短波長の光を取り除くフィルターとして働いている。
 フィルター効果によって鳥類の4タイプの視細胞のうち3タイプでは波長感受域が狭まり,実際の吸収域は長波長側にシフトする。 右のグラフでは点線は油滴がない場合,実線は油滴を通した場合。 錐体視細胞が応答する波長域に制限をかけることで,鳥類は油滴がない場合に比べてより多くの色を区別できるようになる。 大気の上層にあるオゾン層は波長が300nmよりも短い光を吸収してしまうので,鳥類の紫外線視覚に関係するのは波長300~400nmの近紫外線だけだ。

紫外線が見えている証拠鳥類は本当に紫外線を他と異なる特定の色としてみているのだろうか? 筆者たちのグループは「色一致法」という手法を使って,鳥が実際に紫外線を特定の色として見ていることを示した。 特定の紫色の単色光を覚えるように訓練したインコを使い,青と紫外線の混合光と紫の単色光を区別させるという方法がとられた。 混合光が8~9%の紫外線を含むとき,訓練光の紫と色が一致し,鳥たちは色選択をたくさん間違えるようになった(矢印)。 そこでの正解率はあてずっぽうで答えた場合(50%)と同程度のレベルに落ちた。 その混合比は,間あっしく筆者たちが鳥の錐体視細胞の視物質と油滴の計測に基づいて,色一致が起こると予測した混合比だった。
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鳥類の視覚世界を垣間見る

 ヒトの色覚は三角形で表現することが出来る。 私たちに見ることの出来る単色光の波長はすべて三角形の内側に示した太い曲線上に乗る。 光の混合による他の多くの色はすべてその曲線の下側の領域にくる。
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 鳥の色覚を同様に表現するには,もう1次元加えなければならない。 それが実線で示した四面体(三角錐)だ。 紫外線受容体を刺激しない色はすべて底面に表される。 しかし,鳥では錐体視細胞に含まれる油滴のおかげで見ることのできる色の数が増えるので(前ページの上の囲み),これらの色領域は底面の三角形の全域にわたり,ヒトの場合のサメのひれ型よりも広くなる。 紫外線受容体がかかわる色は四面体底面から上の空間に位置する。 例えば,ゴシキノジコのオス(写真)は,赤や緑,青のカラフルな羽毛をまとっているが,こうした私たちに見える色に加えて,さまざまな量の紫外線を反射している(グラフ参照)。c0062295_8225775.jpg
 メスのゴシキノジコがこの鳥に見る色をグラフで表すには,平面の三角形でなく3次元の広がりを持つ四面体を使わなければならない。 羽毛の局所領域の反射色は点の塊として示してある。 明るい赤色は胸からのどにかけての領域,暗い赤はお尻の部分,緑色は背中,青色は頭部である(ヒトはこれらの色を知覚できないため,鳥が実際に見ている色を示すことはできない)。 その色に紫外線成分が多ければ多いほど,点は底面からより高くに位置するようになる。 ヒトが見てもこの鳥の胸やのどの赤い領域には,色のばらつきが見られるが,反射光はそれぞれの領域内でも完全に均一ではないので,各点も塊の中でばらつきがある。
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紫外線世界をイメージする
 鳥が世界をどのように見ているのかを実際に知ることはできないが,特殊なカメラで撮影した写真を見ると,紫外線が知覚できれば世界が大きく違って見えることがわかる。
UV[#IMAGE|c0062295_1401727.jpg|200611/18/95/|mid|335|455#]
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写真のキク科植物(Rudbeckia hirta)の花は,私たちには黄色の花びらと中央の小さな黒い円にしか見えない(Color)。しかし紫外線だけを検出するカメラで見てみると,花びらの色が途中から変わり,中心を大きなリングで囲んでいることがわかる(GlayScale)。 写真提供はロチェスター工科大学の画像・写真技術の教授であるデイビッドへジー(Andrew Davidhazy)。
SCIENTIFIC AMERICAN編集部

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by bucmacoto | 2001-07-02 00:50 | quote/data
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