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紹介文@第25回 全国中学生 人権作文コンテスト 入賞作文
2006年 06月 12日
第25回
全国中学生 人権作文コンテスト 入賞作文集
発行者

法務省人権擁護局
全国人権擁護委員連合会


※ 本紹介文による転記につき、冊子発行者より転載許諾を得た。
(許諾確認先:法務省人権擁護局 人権啓発課 @ 2006.6/12 13:59)


すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神を持って行動しなければならない。


世界人権宣言 第一条


Page 24-27
法務副大臣賞


梅雨に入った日


埼玉県・***中学校 三年

 今年関東地方が梅雨入りをしたのは六月十日の金曜日だった。僕はこの日を絶対に忘れないだろう。
 僕の兄は障害を持っている。今年の三月、越谷養護学校の高等部を卒業した。そして、就職のために毎週木曜日、ハローワークに行き、そこで紹介された会社へ面接に行く。六月までに三度行った。結果は全て不採用だった。
 兄は自分の障害を自覚している。不採用の通知が来ると、その日は落ち込む。でも翌日から
「また木曜日にハローワークに行ってくる。」
と明るい声で話す。
 兄は僕に色々な事を話してくれる。面接の時、ハローワークの担当者に
「この子は言葉がはなせるんですか?」
「突然、暴れたりしませんか?」
と目の前で聞かれて悲しい思いをしたこと。その会社の一つは障害者雇用で日本でも有名な会社だったこと。
「僕はまだちゃんと喋れるけれど、障害で筋肉をうまく動かすことができないから、突然、大声を出すように見える人だっているんだ。みんな健康な人と同じように話したいんだ。何で分かってくれないんだろう?」
と兄はちょっと怒った口調で僕に話をした。
 六月九日木曜日、兄はハローワークに行った。そこで紹介された会社は今までの中で家から一番近い所だった。自転車で五分、歩いても一五分の距離だった。そして、翌日の六月十日、梅雨に入ったこの日、兄は母と一緒に面接に行った。学校から帰ってきた僕を待っていたのは、嬉しさを隠し切れない兄の笑顔だった。
 「採用されたよ。」の言葉をきっかけに兄の言葉は止まらなかった。本社は群馬にある二十人位のネジを作る会社だということ。工場長が自分を一人の人間としてキチンと対応してくれたこと。実際に作業をさせてもらって、障害をもつ自分でもやっていける自信があること。頑張れば正社員になることができること。他のパートのおばさんたちも一人の人間jとして扱ってくれたこと。十三日の月曜日から働けること。兄の話は止まらなかった。だから僕は、嬉しくてたまらなかった。
 十一日の土曜日、僕達家族は兄の就職祝いを兼ねて食事に出かけた。途中で寄ったホームセンターで百九十八円の中国製の傘に目を止め兄が母に聞いている。
「お母さんこれ買っていい?」
普段滅多に物をねだらない兄にしては珍しいなと、僕は思った。三種類の色の中から一番地味な色を兄は選んだ。その日の夕食は本当に楽しく過ぎていった。
 十二日日曜日、お昼前に電話が鳴った。母が出た。電話している母の顔が曇った。涙声になった。電話は工場長さんからだった。「群馬の本社の社長に兄の採用を伝えたところ、もし万が一怪我でもしたら会社としては責任を取れない。と言われた。だから、今回は、採用を見合わせたい。」との電話だった。母からその話を聞いた兄は何も言わず二階の自分の部屋に上がっていった。昼食にも夕食にも兄は降りてこなかった。



 夜遅く、目を真っ赤にして居間に降りて来た兄は何も言わずソファに座った。顔はテレビを向いていたが見ていないのは分かった。十分程して兄が母の方を向いて言った。
「お母さん、傘買っちゃってもったいなかったね」
 この時、お兄ちゃんの感情が僕に押し寄せてきた。自由のきかない手足で毎日一時間、自転車の練習をしているお兄ちゃん。お兄ちゃんの頭には自転車で出勤をしている自分が見えていたんだ。梅雨に入り、雨で自転車が漕げない日の為に、自分の新しい出発を祝って傘をねだったんだ。お兄ちゃんの目には雨の日に新しい傘を差して出勤をする自分が見えていたんだ。
 この時、何故か僕は自分自身に腹が立っていた。面倒くさがりの自分。提出物を出さず怒られてばかりいる自分。体力の無い自分。女子よりも握力の無い自分。兄のために何もできない自分。本当に無力の自分。
 夏休みに入り、僕は六時におきて一時間ウォーキングをしている。父に頼んで握力を強くする器具を買ってもらい、いつも握っている。提出物を絶対期限内までに出せるよう毎日、確認をしている。英検は合格した。次は漢検だ。でもまだまだ全然だめだ。
 強くならなくてはいけない。家族に守られている僕が、いつか兄を守るために。障害を持つ人たちが悲しい思いをしないために。
 僕は2005年の六月十日を絶対に忘れない。
 「傘もったいなかったね。」 僕はこの兄の言葉を絶対に忘れない
[#IMAGE|c0062295_14184744.jpg|200606/13/95/|mid|250|250#]


私が、この入賞作文集の中で 最も気に入った作品です。
本日 転載許諾を得ましたので公開投稿いたします。
posting:2006.6/12
last modify:2006.6/13
post script:2006.6/29
いくつかがこちらに掲載されております→全国中学生人権作文コンテスト

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by bucmacoto | 2006-06-12 18:24 | quote/data
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